みんな違う夜に居る
「ぽんは夜は少しヤなんだー。だって、写真きれいに撮れないんだもん」
ぽんはいつもそう言う。夜の景色はきれいで好きだけど、写真で撮れない、写真で撮れないと悩んでいた。
あるとき、星がたくさん見えるところに寝そべっていた。ぽんはiphoneのカメラを通して空を見る。
「カメラってさー、目が悪いよねー」そんなことをぽんが言った。「ぽんの目からしたら、一番光ってる星、それなりに光ってる星、がんばったら見れる星の全部が見えるけど、カメラでは全部見えないんだよねー」
「光だけじゃなくてね、黒い空もきれいにならないんだ。カメラの中だと、赤とか緑とか小さいつぶつぶになってバラバラにあるから、きれいに真っ黒に見えないんだ」
撮影された写真を見て、確かにそうだねと言った。
「やっぱり夜は写真撮れないなー。悔しいなー」
そんなことを言いながら、ぽんと星を見た。
*
別のときの話。買い物から帰っていると、ぽんが「今日は赤いね」と言った。何が、と聞くと、「夜が」と答える。
「夜の空がねー、今日は赤いんだ。赤っぽいんだー。この前は紫っぽくてね、この前は黒っぽかったんだ」
夜は黒じゃないの、ときくと「雲みたいなものだよー」と返された。
「毎日毎日、夜の色ってちょっとずつ違うんだよ? じっと見ないと分からないだけで、違うんだよ?」
あまり思っていなかったことだから、「そっか」としか言えなかった。
「そういえば、今日の星と昨日の星も違うよねー」
さすがに星は一緒だよと私は言った。
「場所は同じだけど、見えるものは違うよー。昨日は見えた星でも、今日は見えなくなることだってあるんだよー。ぽんが見える星でも、二号には見えない星あるでしょ? ぽんの目に見える星って、ぽんだけが見える星だって思えるんだよねー!」
楽しそうに、ぽんが言った。
私はそれを聞きながら、「高性能なカメラを買ったとしても、ぽんは撮れないな、悔しいなって言うんだろうな」と思った。