僕らの南極

セカペンたちの知っていること、考えてきたことの記録

ショート・ショート『燃える世界の中で一服 』

昔、小学生の頃にショート・ショートにはまり、ちょくちょく書いていたことを思い出した。最近、大学生になってものを書くってことにとんと縁がない状態だったが、悠やら二号やらが書いているってのと、あいつらから「昔みたいに書かないの?」と言われたのと、いろいろあって深夜のノリで作ってしまった一品。

 

燃える世界の中で一服  

なんてこった。俺は自分の目を疑った。目の前に広がる大きな海は、全て炎に変わっていた。波は火の揺らめきに変わり、波の音は何かが燃える音になっていた。
 この異常について気づいているのは、俺だけだった。唖然とする俺の横を通る親子も、この異常な景色が見渡せるガードレール付近を散歩している老人も、その景色を当たり前のことであるかのように過ごしていた。
「すみません、一つ聞きたいのですが」
 俺は意を決して老人に話しかけた。
「これはどういうことですか。これじゃあ、まるで火の海ですよ」
「いかにも、ここは海だが」
 老人は答えた。それが、この異常が正常であるように捉えられているという証だった。
「はい、ここは海のはずですが……そのう、水がないですよね」

 俺はおそるおそる老人に言った。が、返事は思った通りのものだった。
「君は何を言っているんだ。海に水があるわけがないだろう」
「はあ。いや、俺の知っている海っていうのが、水に充ちたものだったんで……。そうですよ、そう。海っていう字はさんずいを使うじゃないですか」
「さんずいは火のものに使う部首だろう。おまえさんは象形文字というのを学校で習わなかったのか? 姿形が文字になるっていうな……」
「はあ、そうなのですか」
 そこまで言って、俺はため息がついた。ここまで言われると、俺の方が間違っているような気さえしてしまう。昨日までは海は水に満ちあふれていたはずなのに、どうしてこうなったのか。何も面白くない。気が滅入って仕方がない。
「最近の若者は忙しいらしいからな、無理して少し疲れているのだろう。どうだ、一服しないか?」
 俺の落ち込みようを見て、老人が心配そうに言った。俺は喫煙者ではないので「いえ、結構です。ですが、隣で吸う分には気にしないので」と言った。老人は「そうか」とにやりと笑い、煙草を取り出した。
 これから俺はどうしようか。そんなことを考えていたが、隣の老人のくわえた煙草から次々とシャボン玉が飛び出してくるのを見て、どうでもよくなってしまった。